「水が来ない」より先に、「トイレが使えない」で心が折れます。
2024年元日の能登半島地震。珠洲市で被災した私が、防災士となり実際に監修した防災トイレを、ぜんぶ正直にご紹介します。家族がいる家庭、アウトドア好きの方、車中泊ユーザーへ。
1. 元日の珠洲市。最初に悲鳴が上がったのは「トイレ」でした
2024年1月1日、16時10分。私は妻の実家がある珠洲市に帰省していました。
家族と晩ごはんを食べる前に、薄着でランニングに出かけました。その時に大きな揺れが突如起こり、その場にしゃがみ込むことしかできません。
幸い家族は全員無事。
避難所で家族と合流しましたが、2週間避難所生活を余儀なくされました。
その2週間で、私がいちばん苦しんだのは、食料でも毛布でもなく、トイレとお風呂でした。
「水は配給される。食料もいずれ届く。でも、排泄は『今すぐ』の問題なんです」
断水すると当然、水洗トイレは流せません。しかも、マンホールトイレや仮設トイレは発災から数日は届かない。届いても、屋外・極寒・行列。
中学校のトイレに防災トイレが届き、みんなで使うにも数が足りなかったりしたため、数回分の便を溜めてから次の防災トイレに付け替えてくださいと張り紙が出されました。
しかし、「人の用を足した上に自分の用を足して、それを封をして次のものに取り替える」ということをすすんでする人は少なくそのまま放置していく人が続出します。
さらに、高齢者も多いので、どの袋を使って洋式トイレに防災トイレを設置したらいいか分からずそのまま放置するということも起こります。
トイレ環境は、本当に過酷でした。体調を崩す家族も出ました。
「水より先にトイレが限界を迎える」――これが、珠洲で私が学んだ最大の教訓です。
2. データでも「トイレ問題」は最優先課題
内閣府や自治体の調査では、災害時に被災者が「最も困ったこと」の上位に必ずトイレが入ります。特に在宅避難では深刻で、
- 排泄を我慢して水分を控える → 脱水・エコノミークラス症候群
- 不衛生なトイレで感染症(ノロ・インフルエンザ・新型コロナ等)が拡大
- トイレに行きたくないからと食事量が減り、高齢者は低栄養・廃用症候群へ
- ストレスと尊厳の喪失 → 災害関連死のリスク上昇
避難生活で亡くなる方の相当数は、地震そのものではなく、こうした二次的な要因によるものです。トイレは命を守るインフラ――これは誇張ではありません。
3. 防災士として「これは譲れない」と決めた3つの条件
監修のお話をいただいたとき、被災した自分がまず書き出したのは、「避難所で自分が欲しかったトイレ」のリストでした。
① 臭わないこと!
避難所のトイレに一度でも入った方はわかると思いますが、臭いは人の心を殺します。抗菌・消臭機能は「あれば嬉しい」ではなく「必須」です。
② 袋を色分けして使いやすく!
便座に最初につけるブルーのカバー袋、排泄物を入れる黒の排泄物袋、排泄物袋を入れていく白の処理袋。
慣れない避難所生活で、慣れない防災トイレを使うときに、色でわかりやすくしました。
③ 大容量でコンパクト(家に常備しながら、たまに使って欲しい<車中泊・キャンプ>)
「災害用」として家に1箱は常備して欲しいので、なるべくコンパクトに、でも災害時に足りない、とならない量にしていただきました。
ただ、いざという時に使ったことがないと使い方がわからなかったりします。アウトドアで日常的に使って慣れておけるものであるべき、というのが私の結論でした。
車の車内に数個載せておいたり、登山やトレイルランニングの時の緊急時用に1つ背負っておいたり、日常的に使える環境を整えていただけると嬉しいです。
4. 監修した防災トイレ「もしもくん」はこう仕上げました
上記3条件を、メーカーの開発担当と何度も詰めて形にしたのが、今回ご紹介する防災トイレ もしもくんです。
- 凝固剤+防臭袋が付属。処理時間は約10秒で匂い少なく
- 黒色の廃棄袋で中身が見えず、避難所でも自宅でも心理的負担を軽減
- 車のトランクや玄関収納に収まるコンパクト設計
- 平時はキャンプ・車中泊・釣りに、非常時は防災用に
- 荘司監修の防災ガイドブックの作成(避難所で困ったことなどを思い出しながら作成しました)
正直に言えば、「完璧なトイレ」は存在しません。ただ、珠洲であのとき欲しかったものを、限りなく形にしたのがもしもくんです。
5. こんなシーンで活躍します
▶ 一般家庭の備蓄として
1人あたり1日5回 × 3日分 × 家族人数、が備蓄の目安です。4人家族なら60回分。もしもくんは交換処理袋の追加購入も可能なので、まず本体+標準セット、そこに家族人数分の追加袋を積み上げるのがおすすめです。
▶ マンション住まいの方に特に
停電でエレベーターが止まると、高層階からの避難は現実的ではありません。在宅避難が前提となるマンション世帯こそ、室内で完結する防災トイレが必須です。プライバシーも守れます。
▶ 車中泊・キャンプ・釣り・アウトドアに
道の駅や高速SAが閉まっている夜、降雪や事故などで車中に缶詰にされた時、子どもが「漏れそう」と言い出す瞬間――これ、本当に焦ります。もしもくんはそのまま車に積んでおけば、アウトドアの「もしも」と、災害の「もしも」を一台で両取りできます。
▶ 登山・海釣り・フェス・渋滞
使用頻度は低くても、「あると分かっている安心」は行動範囲を広げてくれます。特にお子さん連れの遠出では、車載マストアイテムと言えます。
6. よくある質問(防災士として回答します)
- 普段から開封して、キャンプで使っても大丈夫ですか?
- むしろ推奨します。「使い方を知らない防災用品はない方がマシ」というのが被災経験からの本音です。年に1〜2回はアウトドアで使い、家族全員が使える状態にしておきましょう。
- 処理袋はどう捨てれば?
- 平時は各自治体のルールに従って可燃ゴミへ。災害時は自治体の指示に従ってください。黒色袋をさらに白色袋に入れるので、ゴミ集積所に出す心理的抵抗が少ないのもポイントです。
- 凝固剤の保存期間は?
- 未開封で10年程度が目安です(メーカー表記をご確認ください)。防災グッズは「賞味期限リスト」を作り、年1回チェックする習慣を作りましょう。
- 他社の防災トイレとの違いは?
- 最大の違いは「防災士であり、被災当事者が監修している」ことだと思っています。数値スペックだけでなく、避難所で人が何に傷ついて何に救われるかまで設計に反映しています。
- どれくらい備蓄すればいい?
- 家族人数 × 5回 × 最低3日分を。7日分備えられれば理想です。能登半島地震の断水は、地域によっては数ヶ月単位で続きました。
7. 最後に ― 「備える」ことは、未来の自分と家族への手紙です
珠洲市で迎えたあの元日、私は防災グッズを「いつかのために」と押し入れの奥にしまい込んでいた自分を、何度も悔やみました。備蓄は、棚の奥に置くものではなく、いつでも使える場所に置くものです。
このもしもくんは、被災経験のある私が、家族や友人に心から勧められる一台に仕上げたつもりです。あなたとあなたの大切な人が、万が一のとき「トイレで泣かなくていい」ために。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。一人でも多くの方が、次の災害で「トイレで困らない夜」を迎えられますように。
― 防災士 荘司 隼也